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◆最悪な一日◆
「……な、なんなのこれ」
両手に持っていたゴミ袋の手に力を込めた結城舞は、信じられないものを見たかのように目をしばたいた。
たしか今日は、燃えるゴミの日のはず。
引っ越しの荷ほどきをする前に、分別ルールの紙を熟読していたのだから間違いようがない。
まぁ、自分が三歩歩いたら忘れてしまうという特技があれば別だが、そういう特技は持ち合わせてない。けれど、記憶力に関してはわりといい方だと自負している。
そんな舞の目の前には明らかに分別されていないゴミが鎮座していた。
しかも、ゴミステーションには1袋のみ。
ゴミは収集日の朝に出すのが一般常識だ。分別ルールによると、この地域は6時から8時までの間にゴミを出すように決められていた。
幸い今は、朝の6時過ぎ。
昨日引っ越してきたばかりの舞でさえ、きちんと時間内に出すというルールに則っている。
それならこのゴミを捨てた犯人はまだ近くにいるかもしれない、と振り返り、急いであたりを見渡す。
――あれ? いない。
おかしいな、と思いながら首を傾げる。
敷地内もそんなに広くないし、もう部屋に戻ってしまったのだろうか。でも、ゴミを持って来たときにすれ違った人は誰一人いなかった気がした。
――もしかして……
ある1つの答えに辿り着いた舞は、みるみるうちに顔が険しくなっていく。
――まさか、夜出した?
一度ならず二度までも禁忌を侵したのか、と所有者のわからないゴミ袋を睨みつける。
「ほんと、最悪……」
吐き捨てるように告げた舞は、目の前の分別されていない袋から空き缶だけ取り出し、部屋へ戻った。
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