推理

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推理

「今日の料理はいかがでしたかな?」  F氏は食事の後お決まりの質問を投げかけてきた。さあ来たぞ。  この質問は、ただ感想を聞いているだけではない。メイン食材が何であるか、当てさせようともしているのだ。もちろん大抵は当たらない。料理の知識が乏しい僕が、味だけでそれが何の肉なのか、なんという魚なのかわかるわけがないのだ。種明かしの時に、生まれて初めてその名前を聞くという事だって珍しくない。  今日の料理は、大ぶりの肉がごろごろと入っているシチューだった。濃厚な味わいのホワイトソースに、香ばしい焼き色を付けた野菜の数々。そして存在感のある大ぶりの肉は淡白な味わいの中にもプリンとした弾力の歯ごたえがあり、生命力にあふれた野性味が僕の細胞一つ一つにしみわたっていくようだった。  味わいは鶏肉に近い。でも、何かが違う。 「とても味わい深い、いつもながら……いえ、いつも以上に見事なお料理でした。毎食、必ず前回を大きく上回る美食をご馳走になっておりますので、その感動を的確に表現する言葉が見つからないのが歯がゆいのですが……」  F氏のもてなしに対し、称賛する適切な言葉を持ち合わせていないのが悔しくてならなかった。せめて、食材を見抜く事で、自分の舌の成長を見せられればいいのだが……。  無論、食材を当てられなかったからと言ってF氏が失望を見せる事はない。しかし僕はなんとなく、F氏が僕を育てようとしているのかも知れないと感じ始めていた。期待に応えなければならないと思い始めてもいた。 「淡白な白身肉……。でも鶏肉とは違う。肉食獣の味わいがあります。でも待てよ……。魚とか甲殻類みたいな風味もあったような……」  考えれば考える程わからなかった。水辺に住む肉食動物……なのか? 僕は頭を切り替えて、食材としてではなく動物の生態を意識して、あの肉が何だったのかを推理しようとした。そして。
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