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次に目が覚めたのは、外が薄暗くなってからだった。
コーシの熱はほぼ引き、だいぶ楽に体を起こすことができた。
「…セーラ?」
隣を見るとまだ苦し気な呼吸のセーラが横になっている。
コーシはずれ落ちていたタオルを手に取った。
「ちょっと待ってろ」
水で洗いに行き、セーラの額に乗せなおす。
だがそこで動きがぴたりと止まった。
考えてみれば、看病なんてしたことがない。
病に伏せるサキなんて見たこともないし、負傷した時でさえ決して側に近付く事は許されなかった。
どうしたものかと考えていると、セーラが寝返りを打ち襟元を握りしめた。
「息苦しいのか…?」
襟元のボタンを外してやると、少しずつ昨日どう看病されていたのか思い出してきた。
とにかく汗を拭いてやろうとタオルを取ると不器用な動きで首筋に当てる。
もう少しボタンを外そうとしたところでその手はまたぴたりと止まった。
「…いや、だめだろこれは」
女が男にしても許されるかもしれないが、男が女にすると間違いなく非難轟々だ。
困惑しているとセーラが僅かに目を開いた。
「…いよ…」
消えそうなほどの、掠れる声。
「なに?」
「なにも、しなくて…いいよ。だいじょ、ぶ…」
「…」
コーシはベッドに両手をつくと、セーラの額に自分の額をこつんとつけた。
「こんなに熱いのに何言ってんだよ。昨日はよくもやりたい放題やってくれたな。今日はきっちりお返しさせてもらうからな」
コーシは意地でも看病することにした。
考えてみれば以前なんかセーラを丸裸にして洗い流しても平気だったのだ。
別に今更躊躇うような事はない。
…はずだ。
大量の汗を吸いびっしょりと濡れている服に手をかけると、コーシはできるだけ無で挑んだ。
思ったより作業は淡々と進んだ。
体を反転させ、背中の汗を拭いてやってから最後に新しいシャツに袖を通させる。
無事に終わりほっと一息つくと、腕の中にいたセーラが身じろぎをした。
「…コー、シ…」
うわ言のように吐息から声がこぼれ落ちる。
その途端、無心だったコーシの五感全てが大いに刺激された。
香る肌も、かすれる声も、乱れた髪も、全てが体に泡立つような熱をもたらす。
気が付けば自分の腕はセーラを抱き寄せていた。
「…」
静かに流れる時間が、体を貫いた衝動を抑え込んでいく。
手放しそうな理性を懸命に手繰り寄せていると、セーラは人の気も知らずに浅い呼吸の中で囁いた。
「コーシ…」
「…」
「大好きだよ…」
セーラをゆっくり離しベッドに寝かせ直す。
「…いいから、寝てろ」
布団をかけ、音を立てないように部屋を出る。
リビングのソファにどさりと腰を下ろすと、ため息と共に頭を抱えた。
「はぁ…、あぶね…」
あの衝動は自分への警告だ。
本当は、気付いてる。
セーラを特別視し始めている事に。
「…」
これは、恐らく良くない。
もし自分が欲してしまえば、セーラは絶対に拒否はしないだろう。
何故なら彼女は拒否をするという選択肢を与えられていないからだ。
せめて、セーラが自分の意思で好意を寄せているのなら…。
「なんで、俺なんだよ…」
こぼした言葉があまりにも苦すぎて、病み上がりの身体はどっぷりとソファに沈み込んだ。
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