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家に着くまで、セーラは歩きながらずっとサナの事ばかり話し、コーシはどこか不思議な思いでそれを聞いていた。
「なんだよ、そんなにサナと仲良くなったのか?」
「うん。私サナ、大好き!」
「お前のダイスキは軽いんだよっ」
くしゃりと撫でる手がどことなく優しい。
セーラは話しながらも、サナとコーシの事がどうしても聞きたくてずっとそわそわしていた。
「あの…、あのね、コーシ」
「ん?」
言葉は喉に詰まりかけたが、サナの「言いたいことは言っていい」という一言が後押しして口を開いた。
「コーシはサナが…、好きなの…?」
思い切って言ったものの胸が詰まる。
コーシは煙草を取り出しながらそんなセーラを見下ろしていたが、火をつけると小難しい顔をした。
「…本気で、守ろうと思ってた」
目が合うとにやりと笑う。
「俺が八歳の時の話」
「はっさい…?」
「そう。ま、オレンジ頭の詐欺ヤローに持ってかれたけどな」
「え…」
「クソむかつくけど、サナはあいつにしか救えなかったんだ。だからもう、それは全部終わった話だ」
セーラはドクドクと大きな音を立てる胸を押さえた。
「そう、なんだ…」
「そうなんだよ」
コーシは煙草をふかしながら遠い目をした。
芋づる式に、その頃のことが次々と瞼に浮かぶ。
「あの頃はスラムも内戦中で…、前も言ったけど、俺は南区にいたんだ。一番大変だったけど一番自分の力で生きてるって感じがしてたな」
「…」
「それなのに今はなんか…抜け殻みたいだ」
灰を落とすと、何かを振り切るようにがしがしと頭をかく。
「っあー!!ったく、それにしても何処にいるんだよサキのヤロおぉ!!」
動くに動けないもどかしさに、忘れていた苛立ちが戻ってくる。
こんなに探し回っているのに手掛かりすら掴めない現状に、コーシは一人苛立ち、焦りと疲労が溜まりに溜まっていた。
隠れ家に戻るといつものように体を流し、セーラが持ち帰ったご飯を二人で食べる。
ソファに沈み込んでいたコーシは知らぬ間にうとうととしていた。
片付けを終えたセーラは、そっとしておいて自分もシャワーを浴びに行った。
体も温まり、出ようとしたところで棚に服がない事に気付く。
そういえば熱で寝込んでいたから洗い物が滞っているのだった。
「え…と、どうしよう…」
今日着ていた服は脱いだ時に水を張った簡易洗濯機に入れたので既にびしょびしょだ。
とりあえず髪を乾かし大きめのタオルを体に巻くと、そっと脱衣所を出る。
コーシはまだソファで眠ったままだ。
セーラは薄暗いライトだけがついた寝室へ入ると、荷物を入れた鞄の中を探した。
「うーん、コーシのシャツしかない…」
床に落ちているのは、着替えさせてもらった時に脱ぎ捨てた自分の服だ。
それを拾い上げ、後で洗うために一箇所にまとめる。
ついでに乱れていたベッドを整えていると、扉がカタリと音をたてた。
「うー…、ねっみぃ…」
「こ、コーシ…」
コーシはふらふら入ってくるとセーラの隣へどさりと倒れ込んだ。
「今日、俺…こっちで寝る」
「う、うん。じゃあ私はあっちのソファで…」
ベッドから降りようとしたが、腕を掴まれ引き寄せられた。
「わわっ」
「…いい匂いがする」
がっちりと抱かれ、甘えるようにすり寄られる。
セーラはまだタオルを巻いただけの自分に焦り、コーシの肩をたたいた。
「コーシ、あの、た、タオルが…」
「タオル…?」
体を這う手がタオルを指に引っ掛ける。
「…ほんとだ、邪魔」
「まっ、待ってー!ちがう、そうじゃなくて!」
真っ赤になって叫ぶと、コーシは少し目を覚ました。
腕の中にいるのは、素肌が香るセーラだ。
いつもならすぐに離れるところだが、疲れきった体は目の前の柔らかな体を欲している。
何も考えられなくなるとセーラの肩に口付けた。
「っ…!」
セーラはびくりと肩を揺らした。
驚きはしたが、コーシの熱量が本気だと感じると一切抵抗せず力を抜く。
コーシはゆっくりと体を起こしセーラを組み敷いた。
そのままじっと見下ろしてくる。
だが、何故かそれ以上動こうとはしない。
セーラは不思議そうに瞬き身じろぎした。
「コー…シ?」
「お前さ、この後なにされるか分かってるのか?」
掠れた声が落ちてくる。
「なんでいつもそんな無防備でいられるんだ?それとも本当は、誰でもいい?」
どこか攻めるような言葉に、僅かに首を横に振る。
「ううん。でも、コーシが望むなら…いいよ」
従順に受け入れようとするセーラに、コーシは思い切り顔をしかめた。
手を離すとベッドから降りる。
「コーシ?」
「…やめた」
「え…」
セーラは驚いて体を起こした。
コーシは寝室から出て行くとソファに戻り、不機嫌そうに煙草を咥えた。
一人残されたセーラはわけが解らず混乱に陥った。
とりあえずコーシのシャツを鞄から取り出しそれを着ると、後を追ってリビングに出る。
「コーシ…怒ってるの?」
おずおずと聞くと、コーシは苦い煙をはいた。
「怒ってる」
「…」
「…自分に」
「え…?」
苛々しながら煙草を灰皿に押し付ける。
「やっぱ俺はここでいい。お前はあっちで寝てろ」
「うん…」
セーラは途方に暮れながら寝室へと戻っていった。
コーシは一人になると、思い切り自分の膝を殴った。
「ぐぅっ…、さすがに、体に悪りぃ…」
背もたれにどさりともたれると、体の中を駆け巡る熱を冷ます為にそのまま無理矢理目を閉じた。
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