合流

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幸いな事に、セーラは翌日には無事回復した。 身体の痣だけはまだ生々しいが、本人は至って元気そうに動いている。 コーシの方がそんなセーラをまだ案じていた。 「おい、そんなに張り切って掃除なんかしなくていいって」 「うん、無理はしてないよ」 レイビーを出ると聞いたセーラは、朝からせっせと掃除を始めていた。 色々あったこの部屋を、綺麗にしてから出たかったからだ。 「後で地上の灯台も行けないかな?」 「ヤリの塔へ?あそこはトレッカが手入れしてくれるから別にいいだろ」 「うん…。でも、あそこは特別だから」 掃除は面倒だが、頬を染めて言われては仕方がない。 コーシは後ろからセーラを抱きしめ、そのままソファに座った。 「じゃあ今から行って、最後はあっちで泊まるか」 「今から?」 「あっちの掃除は明日出る時でいいだろ?だからもう、今日はそんなに動くなよ」 首筋にすり寄り、服の中に滑り込んだ手が優しく肌を撫でる。 「こ…、コーシ…!」 「体は辛くないか」 「そ、それはもう、大丈夫だけど…、うぅ…」 少し体温の低い手が体をなぞっていく。 それは労りを込めた、ゆったりとした愛撫だった。 時間をかけて愛でた後にそっとその手は離れた。 「…行くか」 「え…」 心地よさに身も心も溶けていたセーラは、思わずコーシの手を掴んでいた。 「あ…えと」 先をねだってしまったみたいで真っ赤になる。 コーシは額にキスをした。 「後でな」 地上では今日も輝く星が揺れ、二人は最後に労り尽くした優しい夜を過ごした。 翌日。 コーシに事情を聞いていたトレッカは、二人を見送るためにレイビーの皆を集めて待っていた。 「あ、来た。コーシとセーラだわ!」 二人を見つけた少女達から声が上がる。 セーラはすぐに沢山の人に囲まれた。 「セーラ、行っちゃうなんて寂しいわ」 「また絶対にレイビーにも来てね」 「セーラの事、毎日思っているわ」 少女達の間からすすり泣きが漏れる。 だがそれを圧倒的にうわまる勢いで男達から叫び声が上がった。 「うおーっ!!俺のオアシス、行かないでくれー!!」 「セーラぢゃん!!俺は本気だったんだ!!」 「連れて行くなんて、コーシさんのいじわるー!!」 セーラはびっくりしたが、ちゃんと一人ずつ笑顔で挨拶をした。 最後にトレッカがセーラを抱きしめた。 「セーラ…。悪かったねぇ、最後にあんな事になっちまって」 セーラは可憐さに深みが増した微笑みで抱きしめ返した。 「ううん。私、トレッカのおかげでレイビーが大好きになったの。ありがとう…いっぱいありがとう、トレッカ。大好きだよ」 「セーラ…」 トレッカはセーラを離すと涙を浮かべながら頭を撫でた。 「いつでも帰っておいで。ここはあんたの家なんだから。サナもきっとまた会える日を待ってるよ」 「うん!」 荷物を積み終えたコーシは、盛り上がってやまない見送りに向かって呼んだ。 「セーラ」 笑顔の中心にいた少女がぱっと振り返る。 駆けてきたセーラをふわりと抱き上げると、座席にすとんと乗せた。 「行くか」 「うん!」 挨拶なんて面倒くさいと思っていたが、嬉しそうなセーラを見ているとまぁ良かったかと思い直す。 コーシはトレッカ達を振り返ると一言だけ声を張り上げた。 「世話んなったな!!」 応えるように賑やかな声が後を押す。 エンジンを唸らせひらりと跨ると、二人はレイビーを出発した。 向かうはスラムで一番賑やかな商業区。 セーラの体を考慮し、ルートは地上ではなくメインロードだ。 いつもならエンジン全開で走る愛車は、今日は比較的スピードを抑えて走りだす。 そのバイクが見下ろせる丘の上、ひとつの影が後を追うように動き出した。
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