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「ほらな、あからさまに誘い込む地形は気を付けろって言っただろ?」
岩と岩に挟まれていた細い道は、爆発のせいで瓦礫の山に変わっていた。
M-Aとカヲル、そしてコーシは引きつった顔で体に飛んできた塵を払った。
「なん…て思い切った仕掛けや。よう気付いたな、サキ」
「地面が少し浮いて色が変わってたからな」
「それを普通、バイクに乗りながら気付けるか?」
「不可能じゃないさ。それにしてもこれじゃここからは歩いて行くしかねぇな。そう遠くはないと思うんだが…」
何でもない顔で言うサキを、コーシは睨むように見ていた。
あの動体視力。
そして危機への嗅覚。
コーシはサキが急にバイクを止め、適度に大きな石を探し始めた時は何をしているのかと苛立っていた。
自分なら何も気付かずそのまま突っ込み、吹っ飛んでいただろう。
やはりこういう時には痛感する。
自分とは、格が違うのだと。
コーシの視線に気付くと、サキはにやりと笑った。
「久々に見たな、その目」
「…」
「しっかりついて来いよ、コー」
その一言に幼い頃の記憶を揺さぶられる。
昔は絶対にサキに置いていかれまいと、目の前の大きな背中を睨みながら我武者羅に追っていた。
先に瓦礫に登っていたカヲルは上から呼んだ。
「サキ、あそこだ。岩陰に隠れた所に何かある」
「おう、今行く」
三人も瓦礫を登り反対側へ降りる。
そこはなだらかな丘に囲まれ、周りからは見えない窪地となっていた。
カヲルが言うのはその先の岩が折り重なっている、更に死角の多い場所だ。
近くまで行ってみると、足元に鉄の扉が現れた。
「地下か…。こりゃどれくらいの規模の施設か予想できねーな」
「この扉も仕掛けられとるかもしれんな」
「こっちも爆破でこじ開けるから、何を仕掛けられてても同じさ」
サキはポケットから出した手のひらサイズの小型爆弾を鉄の扉に設置した。
M-Aは砂利でも噛んだ顔をした。
「おまえな…。気軽に爆発物ポケット入れて持って来んのやめろて前も言うたやろが!」
「時間がなかったんだよ」
「間違えて爆発したらどないすんねん!?お前の横おるだけで仏なるわ!!」
「はいはい、分かったって」
鉄の扉が吹き飛ぶと、思った通り地下へと続く階段が現れた。
コーシは警戒しながら覗き込んだ。
「こんな所にセーラがいるのか?」
「多分な。先に俺が行くからお前は…」
言いかけたサキは急に後ろを振り返り拳銃を抜いた。
いや、サキだけではない。
見ればM-Aもカヲルも、いつの間にか背後に向けて構えている。
程なくして丘の上から続々と良からぬ男達が姿を現し、滑り降りて来た。
「…なんや、お前ら」
男達はにやにやしながら一定の距離を空けて止まった。
「よぉ、待ってたよ。ボス」
「悪いが、あんたの首があれば俺たちは一生遊んで暮らせるんだ」
「そっちはたったの四人だ。無駄な抵抗はしない方がいいんじゃねぇの?」
ざっと見て数は五十前後。
大体どの顔も年若く、恐らく内戦の時のサキをよく知らない者ばかりだ。
M-Aは舌打ちをした。
「ちっ、ララージュの奴め。言わんこっちゃないわ。こいつらも浅い金に踊らされおって」
カヲルも冷静に言った。
「どうやらさっきの爆発が集合の合図だったみたいだな。馬鹿な連中だ」
いくら数で不利だとしても、こっちは百戦錬磨揃いだ。
負ける気は毛頭なかったが、サキは緊迫した声で一点を見つめながら言った。
「なんか…、嫌な感じだ」
「あん?」
「M-A、ここは俺一人でいい。お前とカヲルは次の動きに警戒しててくれ」
「あ、アホぬかせ!!いくら何でもお前一人て…!!」
サキは聞いちゃいなかった。
既に神経は目の前の敵に向けて研ぎ澄まされている。
一人で前に出ると、拳銃を向けた。
「…ひとつ、お前らに言っておく。俺は敵に情をかけるほど優しくはない。向かってくる奴は必ず、殺す」
静かな牽制に男達から笑みが消えた。
「へっ…、そうやって拳銃なんざ振りかざして強いつもりか」
「今更そんなものにびびると思うのか?そんな物、当たらなきゃただのおもちゃ…」
耳を劈く発砲音と共に、眉間を撃ち抜かれた男が二人膝から崩れ落ちる。
サキの目は冷酷に光った。
「当てらんねぇのに、持つわけねーだろ」
「ぐっ…!!」
男達は一気に殺気立った。
「てめぇ!!正気か!!」
「暴発して自滅するまで撃つ気なのか!?」
余裕で弾を詰め直すと、サキは一瞥をくれた。
「そんなに危なくはないぜ?俺限定ならな。…さぁ、来いよ」
浮かんだのは修羅の笑み。
特別凄んだわけではない。
大声で脅しつけたわけでもない。
ただ拳銃を握るこの男は、呼吸をするように人を殺せる。
それは生きるものにとって本能的にぞっとする恐怖を与えた。
見せつけられた気迫に、誰もが息を呑み動けない。
「なんだよ。来ねえなら俺が行くけど?」
「…こっ、このはったり野郎め!!ぶっ殺してやる!!」
挑発を受け、その場は一気に大乱闘となった。
一身に敵を引き受けたサキは、自らも攻撃に躍り出ると暴れに暴れだした。
襲い来る相手を置き去りにする身のこなしと、五回撃てば五人倒れる射撃の腕。
更に無駄のない一撃で相手を次々と地に沈める強烈な拳と蹴り。
誰をも寄せ付けない猛攻を繰り広げながらも、サキはちらりとM-Aを見るとコーシに向けて顎をしゃくった。
M-Aはハッとするとコーシの襟首を掴み地下の階段へ放り込んだ。
「って!!何だよM-A!!」
「コーシ!!お前は先にフラッガを追え!!」
「お前らを置いていけるかよ!!」
「お前は何の為にここへ来たんや!?セーラを助けられんのはお前だけやろうが!!さっさと行ってフラッガぶっ飛ばしてこいや!!」
コーシはぐっと拳を握ると、M-Aの襟首を勢いよく掴んで言った。
「…死ぬなよ」
M-Aは不敵に笑いながらコーシの背中を張り飛ばした。
「お前に心配されるほど落ちぶれてないで!!ほら行け!!」
コーシは頷くと地下への階段を駆け降りた。
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