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宣言通り情け容赦のかけらもないサキの攻めに、反旗を翻した男達はこぞって青くなっていた。
「なっ…、なんて強さだ!!」
「こ、こんな話聞いてねぇぞ!!」
「俺は降りるぞ!!死んだら元も子もねぇ!!」
既に数は半分も減っている。
M-Aは収束を見て取った。
「よし。サキもまだ落ち着いてるしこのまま蹴散らせば…」
「M-A…!!」
カヲルは丘の上を見上げた。
「…囲まれてる!!」
「何やと!?」
新たに丘の上に現れた男達の数は、さっきよりも何倍も多い。
しかも今度は年齢幅も広く、手には本格的な武器を持っている。
M-Aは毛を逆立てた。
「どっ…どっから来おったんや!!こいつらは!!」
「あの特徴的な鎖鎌は…」
カヲルはサキに叫んだ。
「サキ!!こいつらは南区の連中だ!!」
「南区…」
フラッガは商人を使い南区へまで足を運ばせ、水面下で着々と反乱分子を集めていたのだ。
広大で一番荒れている南区なら、これくらいの人数を集めることも可能だろう。
サキは一度前線から離れ、後ろへ飛び退いた。
そして丘から攻め入ってきた男達に向けて、獅子の如く怒号を上げた。
「てめぇら!!この俺とグランディオンを敵に回した代償は分かってんだろうな!!」
空気を震わせたサキの大喝に一瞬男達の足が止まる。
拳銃をしまうと、左右両鞘から研ぎ澄まされたナイフを二本引き抜いた。
「その命に未練がないなら、来い!!」
サキの得意分野は拳銃ではない。
むしろ銃は己の理性を保つために持っている。
自身でも歯止めが効かないほど猛威を奮うのは、この二本の刃だ。
武器を持ち替えたサキに、M-Aは危険を感じた。
「あかん…!!行くぞカヲル!!」
「分かってる!!」
嵐のように敵を斬り捨てる程にサキの理性は失われていく。
こうなると厄介なのは敵よりむしろサキだ。
「次の動きに警戒しろって言うたくせに、結局自分が暴走しとるやないか!!」
とにかく今はサキが闇堕ちする前に敵を完封するしかない。
M-Aはその拳で次々と相手を薙ぎ倒し、カヲルは握った小太刀で風の如く斬り捨てた。
スラム屈指の強豪三人の周りに、敗れた男達の山が出来上がっていく。
その凄まじさに、まだまだ優位なはずの南区の男達の動きが鈍った。
「あの噂は伊達じゃねぇ…。こいつら、バケモンか!?」
思わず逃げ腰になったが、そこへ今度は丘の上から落雷のような怒号が轟いた。
「貴様ら大概にしねえか!!俺に恥をかかせやがって!!」
その怒声は南区の者なら耳にするだけで飛び上がるものだった。
南側の岩盤の上に、獣のようなその姿はあった。
「ひっ!!ぼ、ボス!!」
「ち、違うんだ!!これは…!!」
そこに立つのは南区のボス、グランディオンだ。
遠目にでも分かる巨体を更に怒りで盛り上げ、大男は右腕を振り上げた。
その背後から大量の手下が姿を現す。
これには誰もが肝を冷やした。
グランディオンは焼け切れるような睨みを効かせると無情に言い放った。
「楽に死ねると思うなよ」
拳を前に突き出すと、絶対ボスに従った男達は一斉に裏切り者へと雪崩れ込んだ。
戦場はみるみる抑え込まれた。
一矢報いようとした者達は捨て身でサキに襲いかかったが、遂に最後の一人まで王者に膝を付かせる事は出来ずに沈んだ。
「…っく、はぁ…、はぁ…」
サキはナイフの血を袖で拭うと鞘に収めた。
流石に大きく息を乱し大量に流れる汗を拭う。
グランディオンはサキの近くまで来ると薄く笑った。
「…久々にそんなお前を見たな」
「はぁ…、はぁ…グラン…」
大量に返り血を浴びたサキは、数え切れない死体の山を踏みつけずかずかと降りてきた。
そしてまだ殺戮の余韻を残した瞳でグランを見上げると声を張り上げた。
「遅い!!」
激しい戦闘後の男の一喝に、グランディオンの手下達が飛び上がる。
サキは構わず怒鳴りつけた。
「不審な奴らには目を光らせておけと言っただろうが!!」
「光らせていたさ。だが南区は広い。一匹ずつ駆除するよるり、ここで一網打尽にした方が確実だろうが」
「じゃあとっとと来いよ!!面倒なとこ押し付けやがって!!」
鬼神の激昂に周りは震え上がったが、グランは不敵に笑った。
「ここまで来た俺に言うことはそれだけか?」
二人はしばらく睨み合っていたが、グランの厚い胸に拳を当てるとサキは一言だけ言った。
「悪い、手間かけた」
「ふんっ。…こっちの後処理はしてやる。さっさとあのチビの所へ行ってやれ」
理性を取り戻したサキは首を傾げて一瞬考えたが、思い当たると少し笑った。
「グラン、コーはもう十年前のちびすけじゃないぜ?今度連れてくわ。…って、お前結構前から見学してやがったな?」
グランディオンの肩を軽く小突くと、サキはすぐに踵を返しM-Aの元へ走った。
普段の気さくなサキしか知らなかった南区の男達は、引きつりながらその背中を見送った。
「ボス…。ボスがサキさんに一目置いていたのは、あの一面を知っていたからですね」
「…」
「あれは…人の出来る事じゃない…」
グランディオンは男たちを一瞥すると鼻で笑った。
「恐ろしいなら手出ししなければいい。あれは敵にしなければ敵にならない男だ」
まだ青い顔をした男たちを残して、南区のボスはさっさと後処理に動き出した。
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