決着

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隠し通路を端まで駆け抜けたコーシは、ひとつだけ閉まっている扉の前で足を止めた。 「はぁ、はぁ…ここか!?」 取手に手をかけても開かない。 だが中からは激しく言い争う声が聞こえてきた。 コーシは隣の部屋へ入ると、大理石で出来た片足のテーブルを手に取った。 再び扉の前に戻ってくるとそれを大きく振りかぶり、ロック部分に力の限り叩きつけた。 派手な音が響きテーブルが砕け落ちる。 ロックがひしゃげて壊れると、すぐに扉を蹴破った。 「セーラ!!」 突如目の前に現れたコーシに、フラッガは鬼のような形相になった。 「お前…!!」 「コーシ!!」 扉のそばでうずくまっていたセーラは、ぼろぼろの姿だった。 コーシは堪らなくなるとすぐに抱え起こした。 「セーラ…!!お前…、お前何やってんだよ!!」 「コーシ…」 「どこにも行くなっつっただろ!?こんな場所で終わるくらいなら、最後まで俺のそばにいろよ!!」 「う…、うぅ…コーシ…」 コーシは泣き出したセーラの頭を抱えた。 「…無事で、よかった」 強く抱きしめたが、その向こうで黒く光るものがこっちに向けられているのが目に入る。 コーシは考えるより先にセーラを抱えたまま床を蹴っていた。 同時に空を切り裂く発砲音が響き渡った。 「拳銃…!!」 滑り込んだテーブルを横倒しにし、その後ろにセーラを降ろす。 コーシはすぐに一人飛び出した。 「コーシ!!」 「そこにいろ!!」 フラッガは格好の獲物に高らかに笑いながら何発も狙い撃った。 「はははは!!そんな丸腰で何が出来るんだい!?いくら君が強くともこれの前では無力なものだよ!!やはりこいつが一番殺傷能力が高くていい!!知ってるか?金さえ払えば暴発しない弾なんていくらでも買えるんだよ!!ほらほら、早く逃げたまえ!!」 「ちっ…!!」 コーシは何度も床を蹴り、転がるように弾を回避した。 狙うは弾切れを起こしたその時だ。 発砲音の代わりにカチンと引き金の音だけが聞こえると、コーシは間髪入れずに飛びかかった。 「いい判断だけど、残念だったね」 フラッガは空になった銃を捨てると、懐からもう一丁取り出してコーシに向けていた。 「なっ…二つ!?」 「死ね」 真正面から飛んでくる弾。 コーシは宙で体を無理やり捻り、弾道の直撃を避けた。 だが躱しきれなかった弾は左肩の肉をえぐり鮮血が散った。 「うっ!!」 「コーシ!!」 「素晴らしい!!素晴らしい身体能力だ!!さぁどこまで逃げ切れるかな!?」 フラッガは嬉々としてとどめを狙い、コーシは辛くも回避する。 激しく動く度に負傷した左肩からは血が飛び散った。 セーラは見ていられなくて叫んだ。 「や、やめて!!もうやめて!!」 「そうですね。もう弾もない事ですし…」 コーシを狙うのをやめると、ぴたりとセーラに照準を合わせる。 「これで終わりにしましょう」 「セーラ!!」 コーシは全力で床を蹴るとセーラを庇うように飛び込んだ。 フラッガは想定通りに動いたコーシに醜悪な笑みを浮かべ、引き金を引いた。 「死ね!!」 一際大きな発砲音が響く。 コーシとセーラはきつく抱き合った体に力を込めた。 コーシの体に衝撃はない。 それならセーラが撃たれたのかとひやりとしたが、セーラも無事だ。 「こ…、コーシ…」 セーラは震えながら後ろを指さした。 振り返り目にしたものは、右上半身が全て吹き飛んだフラッガだった。 「暴…発…?」 指や腕がもげるレベルではない。 どこか悪意すら感じる威力だ。 人が銃を捨てた所以を目の当たりにした二人は、言葉もなかった。 「や、やだ…」 「見るな、セーラ」 ガタガタ震えるセーラの頭を抱え込むと、コーシは詰めていた息を吐いた。 暴発の原因は何となく察しがついた。 フラッガは金さえ払えば幾らでも暴発しない弾を買えると豪語していたが、そんな事はありえない。 フラッガと同じように絶対に暴発しない弾を買っている奴を知っているが、他に見た事がない程の金と情報を握っているそいつでも、莫大な金を払って買えるのは一桁が限度だと言っていた。 あのオレンジ頭は思い出すだけでもイラッとするが、奴の持つ情報以上に正確なものはない。 「金への過信…。自業自得だ」 吐き捨てるように言うと、セーラがコーシの肩のそばに触れた。 「コーシ、血が…、血が止まってないよ」 「ああ…。これくらい、なんて事ない」 コーシは服を破くと、それで傷口を縛りつけた。 「ほら、これで大丈夫だって」 「でも…、私のせいで!!私のせいで!!」 コーシはパニックに陥るセーラにそっと口付けた。 「セーラ」 「う…うぅ…」 「セーラ…、泣くな」 名を呼ぶ優しい声。 こんな時だというのに、コーシは今までで一番優しい顔を見せた。 あの時別れたままだったらこんな表情は見ることが出来なかっただろう。 そう思うと、セーラは泣き止むどころか堪えきれずに嗚咽を漏らした。 コーシが薄水色の頭を撫でていると、部屋中が突然警報の赤色で点滅した。 モニターには三分を切ったカウントダウンが尚もその数字をゼロに向けて進めている。 「コーシ、どうしよう!!あれを止めなきゃここが爆発しちゃう!!」 「な…んだって?」 コーシは立ち上がるとコンピュータパネルを手早く触った。 大きな数字でカウントダウンしていた画面が防犯カメラの画像に切り替わる。 その一角に、施設内にいるサキ達が映った。 「あいつらも中にいんのかよ!!爆発の規模は!?」 「施設ごとこの辺一帯を吹き飛ばすって…」 今からサキ達と合流してこの場を離れるほど時間は残っていない。 となれば何とかここで食い止めるしかない。 コーシは息をもつかせぬ速度で打ち込みをした。 「くそ…っ!!こいつに侵入するにしても時間が足りねぇ!!」 焦りに苛立ったが、ハッとして自分の上着のポケットに手を入れた。 指先に当たったのは書き換え用プログラムが入ったチップ。 調べ物の途中でリコに邪魔された時に入れたままだった物だ。 「これを読み込ませれば…!!」 誘導して感染させれば手っ取り早く掌握出来る。 コーシは最後の賭けに出た。
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