ある山小屋にて

　ある山小屋に、トランプ夫妻という老夫婦が住んでいた。主人のジャックと、妻のエース。
　二人は仲睦まじく、一日に一組だけお客を泊める宿を営みながら生活していた。

　二人はどんなお客でも、いつも温かく迎え入れ、できる限りもてなした。
　それは、例えお金を持っていなくても同じだった。どんなに身なりがみすぼらしい者でも、態度の悪い横柄な者でも、変わらずに世話をした。

　しかし今夜やって来たお客は、さすがの二人も迎え入れることは困難だった。
　外は嵐が吹きすさび、けたたましい雷が轟いていた。
　客の髪や服からはポタポタと雨水が滴り落ち、本来だったら、すぐにタオルを差し出して、温かい暖炉の前に案内するはずだった。

　しかし、トランプ夫妻は客の男を呆然と見ているしかなかった。