ある山小屋にて

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「トランプさんっ!」  ドスッとした音と共に、二人を呼ぶ声が響いた。  二人は恐る恐る目を開けると、道化師の男は床に倒れ、また別の男が立っていた。 「君は……」 「お久しぶりです!クラブです!あなた達に助けられた……」 「まあ、クラブさん……本当にお久しぶりね。元気だったの!?」 「はい、お蔭様で……」  クラブは以前この山小屋で夫妻の世話になったお客の一人だった。  当時、クラブは会社をクビになり、妻と子供も家を出ていき、どん底の状態だった。  自ら命を断つ為に山へやって来たのだが、そこでトランプ夫妻に見つかり、山小屋に連れられたのだった。  二人の温かなもてなしを受けるうちに、彼は生きる力を取り戻した。 「一緒に腕相撲した時、ジャックさんが俺のこと、力強いから格闘技やった方がいいって勧めてくれて……見て下さい!今はこの通りです!」  クラブは二人に、ボクシングのチャンピオンベルトを見せつけた。 「まあ!良かったわね、クラブさん……本当に良かった……」 「ありがとうございます……」  クラブとエースが抱き合うのを見つめ、ジャックはどこか冷静だった。  久しぶりに再会できて嬉しいのは山々だが、……この状況だ。 「クラブくん、助けてくれてありがとう」  ジャックの一言で、他の二人も我に返り道化師に目をやる。 『こいつどうしようか』『死んだの?』  三人がそう思ったその時、道化師はむくりと起き上がった。  再びエースの悲鳴が響く。 「逃げましょう!」  クラブはエースを背負い、ジャックの手を引いて外へ促す。  やはりまだ雨は止んでいない。しかしそんなことを気にしている暇もなかった。 『さっき逃げておけばよかった』『せめて斧だけでも外しときゃよかった』  そう後悔しながら、追いかけてくる道化師から必死に逃げる三人。  
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