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愛情の質量
想いのカタチを示すのは難しい
けれど伝われ、この想い
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「今年のチョコは、本命チョコでいいんだよね?」
「はい?」
「だから、チョコ」
2月も半ばになると、少しずつではあるけれど寒さも和らいできた。だからと言って暖かいわけでもないし、どこかへ行くと言うこともない。
いつものように彼の家へ行き、ゲームをしたり本を読んだりしていた。違うのは、今日がバレンタインだということぐらい。
ゲームをしていたわたしは、哲の声で振り返った。哲はベッドの上で胡座をかき、手にはさっき手渡したバレンタインのチョコが握られていた。チョコをじっと見つめ、リボンをツンツンといじっている。
哲が背中を丸めて小さくなっている姿を見て、わたしは笑ってしまった。
「なんだよ」
「ごめんごめん」
ゲームを一時ストップして、哲の前にちょこんと座る。ムスッと膨れた哲の頬をふにふにと突っつきながら、顔を覗き込んだ。
「本命チョコに決まってるじゃん。だって、哲はわたしの彼氏でしょ? だから、それは本命チョコ。わかった?」
わたしは当たり前だと言わんばかりにふんぞり返りながら伝え、哲の頬を引っ張ってみたけど、未だ顔は晴れない。少しふてくされたような、いじけた顔のままだ。
「——どうしたの?」
わたしも不安になってくるじゃない。
——哲は、あたしのこと彼女と思ってないんじゃないかな、て。
お互い黙り込むと、哲が口を開いた。
「小さい」
「……え?」
「去年のより小さい」
わたしはぽかんと哲を見つめるしかない。その視線に気づいたのか、哲は顔を背ける。その顔はどこか赤い。
「え、ごめん。ちょっとよくわかんないんだけど……」
「だから! 去年の本命チョコの方が大きいって言ってるんだよ! ……俺の方が小さいって、
言ってんの」
何度も言わせないで、恥ずかしいから。
最後の方は消え入るような声で呟き、顔を赤くして俯く哲。
その姿が可愛くて、愛おしくて——。
チョコを握りしめる哲の手をバシバシ叩きながら笑ってしまった。
「……悪かったな、小さい男で」
「ごめ、そうじゃないの」
わたしは目尻に溜まった涙を拭いながら、哲を見つめた。
「哲のは、手作り」
自分でラッピングした、少しいびつなリボンを見つめた。我ながら本当に不器用だと思う。
「小さいのは、うまくできたのがそれだけだったから。ごめんね」
わたしは少し俯きながら、照れくさくて笑ってしまった。もっと、たくさん美味しいチョコをあげたかった。
「小さくても、手作りの方がいい。——ねえ、開けていい?」
「あ、うん。いいよ」
ぼそりと呟いた哲は、なんか、どこか嬉しそうだった。そして、哲はスルスルとリボンを解き、箱のふたを開ける。
箱の中には少しいびつなチョコが2つだけ。本当に、それだけした上手くいかなかった。あげておいて言うのもなんだけれど、買ったものの方がよかったんじゃないか、と思ってしまう。
悶々と考えているわたしを余所に、哲はチョコをつまみ上げて口に頬張る。味見はしたけれど、やっぱり当人の感想は気になるものだ。
「……美味しい?」
ちらりと伺い見ても哲は何も言わずに、黙って2つ目のチョコに手を伸ばす。
「ふみ、一緒に食べよう?」
「え?」
「半分こずつ」
哲はチョコをくわえて、ニコニコと笑いながら顔を突き出してきた。
……何をしたらいいかくらいわかります。
だけど、猛烈に恥ずかしいじゃない。そして、それを承知の上でやっている哲にも腹が立つ。
顔を赤くしてぷっくりと膨れたわたしの頬を、哲は笑いながら撫でて、そっと口付けた。
唇にあたるチョコの感触。2人の熱で溶けたチョコを舐めとるように、そして哲の唇を舐めるように——。
わたしは歯を立ててチョコを半分に割る。2つに割れたチョコを食べながら、わたしたちは甘いキスを繰り返す。
酔いそうになるくらい、甘いチョコの味。
「ごちそうさまでした」
哲はわたしの唇を一舐めし、満面の笑みで満足げに呟いた。
「美味しかったよ」
「……なにが?」
「イロイロとね」
笑いながらまたキスをされて、ぎゅっと抱きかかえられた。
「ありがとう」
「どういたしまして」
お返しと言わんばかりに、わたしからもキスをした。
そして、2人顔を見合わせて笑って、今度はどちらからともなく唇を合わせた。
いつものキスとは違う、甘く溶けるチョコの味。
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