手のひらに流れ星

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手のひらに流れ星

キラキラひかる夜空の星よ 君のところへ想いを伝えて ----------  デパートの地下1階。  俺は今、こに状況の打開策を見つけようとしている。が、いかんせんここは俺にとってアウェーなわけで、途方に暮れるしかない。  俺は壁に寄りかかり、目の前にある光景にため息をつく——それはホワイトデーの特設コーナーである。本当に、ありとあらゆるお菓子というかデザートというか、そう言ったものが立ち並んでいる。  今年は、ふみから『本命チョコ』を貰えたわけだし、ちゃんとしたものを返したかった。  がしかし。 「何をあげたらいいんだ?」  これだけイロイロあると、正直迷う。ふみは多分、俺が選んだモノならなんでもいいと言ってくれるはずだし、喜んでもくれるはず。  だからこそ、ふみには心から喜んでもらいたい。 「ほんと、どうするか」  俺の呟きはデパートの喧騒でかき消される。溢れ返る人の山に、すでに意気消沈している俺にとっては、今すぐにでも帰って寝たいくらいだった。  だけど、そうも言っていられないのが現実だ。こうして考えてるだけでは見つかるものも見つからない。 「あと1回くらい見て周るか」  もしなければ、今日はもう諦めて日を改めよう。  俺は大きく息を吐いて立ち上がると、もう1度お店を見て回った。甘い香りが漂う店内を彷徨い歩き、何気なく見回した先——気になるものを見つけて近づいてみた。  そして思い出される記憶。  ふみと幼なじみだからわかる、2人で共有している思い出。  その出来事を思い出して、思わず笑みがこぼれそうになるのを堪えた。ふみは、覚えているかな。  ふみが泣いて欲しがった、流れ星。  俺は一袋手に取り、会計をお願いした。もちろん可愛らしいラッピング付きで。  これを見たときのふみのはんのうが、今から楽しみでならない。 * 「はい」  俺は先日買ったものを差し出した。今日は3月14日、ホワイトデーだ。ただ、ふみは差し出した俺の手を見つめてまばたきを繰り返す。  まさかとは思うけど、忘れてなんていないよな? 「今日、ホワイトデーですけど?」  本当に一瞬、ふみは目を見張っていた。が、すぐに思い出したのか急に笑顔になった。 「そう、今日だった。くれるの?」 「いらないの?」 「いりますっ」  ふみはぷくっと頬を膨らませて「哲が可愛くない」とぼやく。  ……可愛くないのはどっちだ。素で忘れるか、普通。  ふて腐れながらも嬉しそうに笑うふみの手のひらに、丁度乗るくらいの和風の巾着袋をそっと置いた。 「——かわいい。開けていい?」 「いいよ」  ふみはキュッと結んである紐をスルスルと解き、巾着の口を開ける。 「あ……」  ふみは中を見て、そして俺の顔を見る。そのなんとも言えない表情を見て笑ってしまった。 「何で笑うのよ」 「ごめん、なんかすごいマヌケ顔だったから」 「……一応彼女ですけど」  まったくもう、と相変わらず膨れながら呟き、もう一度巾着の中をのぞき込む。   「懐かしいね、金平糖」  巾着からこぼれ落ちた色とりどりの金平糖。ふみはその一粒一粒を懐かしそうに眺めて手に取る。 「覚えてる?」 「ん?」 「小さい頃、泣いて金平糖ほしがったこと」  あれは幼稚園か小学生になったばかりの頃だったと思う。  ふみは近所の夏祭りで売っていた金平糖を、泣いて欲しがった。  泣いても泣いても枯れることのない涙の泉。当時の俺は、ふみは涙で溺れるんじゃないかと思ったぐらいだった。 「よく、覚えてるね」  ふみは少し恥ずかしそうに視線をそらせた。  覚えてるに決まっている。  ——あの時に、俺はふみのことを好きになったんだから。 「あの頃は、金平糖が星に思えたんだもん」  そう、ふみは金平糖を星だと思っていた。そして『流れ星』として落ちてきたのが金平糖だと——。  願いが叶う流れ星。それが今ふみの手にある。 「ふみは、『流れ星』に何を願う?」  俺は一粒、ふみの手からつまみ上げて光にかざしてみる。  ピンク色の、キラキラと輝く金平糖。ふみの手のひらで光る金平糖。  本当の星に見えてくる、小さな流星群。 「そうだなあ。とりあえず、今は哲と一緒にいられればいいよ」  ふみはキラキラと星のように笑う。小さい頃と変わらない、ふみの笑顔が好きなんだと改めて思う。 「なあ、ふみ」 「なに?」  ポリポリと金平糖を食べるふみに、コツンとおでこを合わせる。 「今日、一緒にいたいかもしれない」  しばらく様子を見ていたふみは、顔を離して俺の髪をワシワシとかき回した。ふみは俺の顔を両手ではさみ、俺の瞳を見つめる。真っ直ぐに射抜くふみの瞳は、本当に綺麗だった。 「仕方ないな、一緒にいてあげるよ。哲はいつまでたっても寂しがり屋だね。だからわたしの弟なんだよ」  ふみからのキスは、まるで子供をあやすような優しく、甘いキスだった。  散らばった金平糖は、星のようにいつまでもキラキラと輝いて、流れ星のようにいつまでも降り続ける。  甘い、輝き。
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