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満員電車の中で、隣の人が迷惑そうに咳払いした。
慌ててジップロックにメモ帳を入れてポケットに突っ込んだけど、臭さはカットできてないんだな。謝るのも変だし、この居心地悪さと申し訳なさに駅に着くまで我慢しなくちゃいけない。
あの人がゆたかであるはずがない……だって私を知らないふりなんてしないはずだから。
会いたい会いたいと毎日夢にまで見ているから……似た人を引きよせてしまったのかな。
彼は仕事を邪魔されたのに、ありがとうって言ってもらえてうれしいですって笑った。そんなふうに喜んでもらえるほど私のありがとうには大した重みはないのに。それでもうれしいと言ってくれた彼の心の美しさに私は……自分の汚さやらなんやらに、いたたまれなくなったんだ。
私の心の中ではいつの間にか中学生のゆたかが清掃員のつなぎを着た大人の男の人に姿を変える。
ああ……私は本当にゆたかが大好きなんだなって思った。
私は幸せなんだろうな……ゆたかに出会えて自分らしく生きることが美しいと教えてもらえたんだから。
ありがとうの反対のことばは何だろうね。
ゆたかは、あの問に解を見つけたのかな。
電車が駅に到着する寸前、ブレーキがかかって体が大きく傾いだ。
足を踏ん張って倒れないように。
駅に着いたらまずいつものパン屋に寄ってクイニーアマンを1つ買う。
それから会社までダッシュだわ。
もしもまたゆたかに……彼に会えたら。
ありがとうの反対のことばはなんだと思う?って尋ねてみようかな。
中学生のときからずっと答えを探して今でも考え続けているって言ったら彼はどんなことばを返してくれるんだろう。
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