『ありがとうの反対のことば』

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 自分の努力をいい家に住み替えることで実感したかった。8階からの眺めはそのまま自分の新しい未来がよい流れに乗っている証拠のように思えた。  ががが……ごみ収集車がくる音が聞こえた。 「やばっ。この地域って朝の収集がすごく早いんだった」  ポリバケツからゴミ袋を取り出すとスリッポンを突っかけてエレベーターに乗った。  各階停止になっていていらいらしながら外に飛び出すとごみ収集車が出発しようとしているところだった。 「待って、待って!」  今まさに運転席に乗り込もうとしていた若い男性が振り返った。  朝日がぱっとビルの間から差してきて彼の顔をまばゆく照らした。  童顔っていってもいいのかな、まつげが長くて優しいかたちの眉毛と黒目がちの瞳。いつも笑っているような頬のラインは、肌の色が白いから何かおもしろそうなことを発見すると、ぱくっと食べてしまいたくなりそうなほんわかした色になる。そんな細かいことを一瞬で思い出した。 「ゆたか……どうしてこんなところに」
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