『ありがとうの反対のことば』

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「お兄さん、お兄さん。うちのごみも持って行っておくれよ」 「はいはい、どうぞ」  おばあさんからごみ袋を受け取りに走り出した彼は少し片足を引きずっていた。  不自由な足で精いっぱい走っている姿は、私の胸をぎゅっと引き絞り……それは体が不自由ながらごみ収集という肉体労働をしている人に対しての哀れみみたいな感情で、そんな上からの目線で人を見るなんて、傲慢だ。正社員になれたからといってこれから成果が出せなければ何の補償もないのだから。  私は彼から目線を外すと急いで部屋に戻った。  シャワーを浴びて着替えて。  きょうは大事な会議が入っている。官公庁関係のビックジェクト、期間も10年と長くなるし、もしこのプロジロェクトの1員に選ばれれば私の会社での立場は安定するはずだ。企画書はきのう家で手直ししてパスワードをかけてクラウドに保管している。官公庁関係のプレゼンには機密情報が含まれるからパスワードは1回ずつ会社から指定されたものにするように指示されていた。  メモ帳に書いていたパスワードを確認しようとして、私は青ざめた。
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