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「どうかしましたか」
彼が私に気が付いた。
「すみません、さっき出したごみの中に大事なメモ帳が入っていたんです」
彼は黒目がちの瞳を困ったようにごみ収集車に向けた。
「もうキャリアーに入れてしまったから出すことはできないですよ」
「それじゃあ困るんです。大事な資料を開くためのパスワードが書いてあるんです。1回しか使えないランダムなパスワードでバックアップなんて取ってないんです……」
どんなに大事なパスワードかなんてあなたには分からないでしょうね。でもそれがないと資料が開けない……大きなプロジェクトに関わるためにどれだけ努力してきたとか関係ないよね。
「危ないから離れていてください」
彼はキャリアーを操作してプロテクトを上げた。
キャリアーの中からむわっと生ごみの臭いが押し寄せてきて、うっと吐き気がこみ上げてきた。
「僕があずささんのごみを探している間、その辺りを掃除してくれませんか」
「えええっ私がどうしてそんなことしなくちゃならないのよ」
「次の収集場所に行く時間は決まってるから」
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