蜂と蜜

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どうしてそうなったのか理由は分からない。でも、確かに服の中に蜂がいて、手を突っ込んだら刺された。 痛みと恐怖に金切り声を上げた僕の元に、慌てて祖父が駆けつけた。泣きじゃくる僕と、室内で羽音を立てて飛ぶ蜂。祖父は窓を開け放って蜂を追い出すと、急いで僕の手を取り赤い点を見つけ、有無を言わさず車に放り込んで病院へと直行した。 幸いアナフィラキシーショックは起きなかった。 ただ、刺された腕は赤く熱を持って腫れたし、とにかくショックを受けた。日常に潜む思いもよらない落とし穴に出会ってしまったことが、どうしようもなく恐かった。 今まで一度も考えたことがなかった。手を入れたら蜂がいるかも、なんて考えて洋服に触れたことなど一度もない。だって、そんなはずないから。 なのに、起こり得ないことが起こるのだ、と知ってしまった今では、どんな理不尽も不幸も予測できない事態も、当たり前のように起きるのだと知ってしまった今では。
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