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そこに左から若い男の人が僕の方にめがけて近づいてきた。ごくごく普通の二十代前半くらい、これといって特徴もない中肉中背、格好いいわけでもないし、眼鏡もかけてないし、服装も地味な黒っぽいシャツにズボン。肩にはリュックをかけている。街ですれ違っても記憶には残らないような、良くも悪くも印象の薄い普通のひとだった。
「 って って ?」
その人はゆっくりと近づいてきながら何かを言った。
その声は歓声にかきけされて僕の元まで届かない。僕は、ん?という顔をして首を傾げた。
大会関係者なのかと思った。その人くらいの年齢のコーチはたくさんいて、全く警戒心のなかった僕は、声をかけられたことに疑問すら抱かなかった。
「 って知ってる?」
更に近づいてきて、1メートルくらいまで来たとき、ふいに悪寒を感じた。なんだかイヤだな、と思った。うまく言葉には出来ないんだけど、イヤな空気を感じた。値踏みされているような目付きが気持ち悪かった。そして、その人は何故か嗤っていた。
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