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偶然立ち寄った繁華街で見かけたあいつは、女に囲まれチャラチャラして笑っていた。
黒かった髪は金髪に変わり耳にはピアス、真っ白なスーツにドレスシャツを着てまるでホストのような…いや、ホストなのだろう。よく見るとあいつの後ろにホストクラブの看板が見える。
なぜあいつが東京でホストなんかやっているのか。
あの時俺への告白を罰ゲームだと言ったのは本当の事で、このチャラい姿が本当のあいつだったのか?
いや、そうではない、はずだ。
―――では、なんで…?
俺は長いことその場であいつの事を見ていたのに気づき、見つかってしまう前にその場からそそくさと逃げだした。
あの時と同じように。
俺はいつも逃げてばかりだ。
あれからあいつの事が頭から離れなかった。
あいつは少しお調子者のところがあるものの根は真面目で優しい人間だ。
何もホストが悪いと言っているわけではなく、よくは知らないがあんな生き馬の目を抜くような世界で生きていけるタイプではないのだ。
つまりはあいつには似合わないと言いたいのだ。
どうして?なんで?
考えてみても答えなど分かるはずもなく。
それに自分からあいつとの関係を絶ったというのに今更何が『あいつには似合わない』だ。
俺とは無関係のヤツの事などどうでもいいではないか。
『ぽっぺん』
あいつと離れてからの10年間、無気力に必死に一人で生きて来た。生きるだけで精一杯だった。
なのに思い出すのはあいつの笑顔と…赤い瞳と。
思い出すとひどく胸が痛んだ。
そしていつの頃からかあいつの事を想う度、『ぽっぺん』という音がしだしたんだ。
何の音なのか分からない。
どこかで聞いた事がある音。
どこでだったのか思い出せない。
最初は小さな音だった。それがあいつを偶然見かけてから少しずつ大きくなっている。
煩くなる音に耳を塞いでみるが、あいつの事を思い浮かべれば更に大きくなり鳴りやむ事はなかった。
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