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俺について
俺、津積保典について話をしよう。
両親は俺が小さい頃は近所でも評判のおしどり夫婦だった。
子どもの俺が見ていて恥ずかしくなるほどラブラブで、俺も大きくなったら父さんや母さんのように愛し合える人と結婚しようって思っていた。
それが変わってしまったのは俺が中学に上がる頃からで、急に仲が悪くなりけんかが絶えなくなった。
両親の怒鳴り合う声と物が割れる音。
怖くて悲しくて俺は自分のベッドに潜り込みひたすら嵐が過ぎるのを待った。
きっとすぐに元の両親に戻って、前のようにラブラブな姿を見せてくれるに違いない、そう思っていた。
だけどそうはならなくて、俺が中学を卒業してすぐに両親は待っていたとばかりに離婚した。
俺は父さんにも母さんにも連れて行ってはもらえず、父さんの親つまりは祖父母の元へとやられた。
祖父母とは殆ど会った事がなく血の繋がりはあるとはいえ他人としか思えなかった。
おまけに方言がきつく何を言っているのか分からないし、両親に捨てられこんな異国のような場所でこれから暮らさなければならないのかと思うと心が死んでいくような気がした。
*****
高校でも話す言葉が分からない事が多く、自然と無口になった。
家にも学校にも自分の居場所なんてなくて、なぜ俺はここにいるんだろう?っていつも考えていた。
そんな中どこにでもお節介な人間はいるもので、ひとりぼっちでいる俺に話しかけてくるヤツもいた。だけどやっぱり言葉が分からずろくな返事もできずにいると相手は気まずそうな顔をして二度と話しかけては来なかった。
この状況は誰が悪いとかそういう話ではなく、あえて言うなら俺が悪い。
実の親に捨てられてしまうような俺だからこうなってしまうのも当たり前の話で、俺自身全てにおいて諦めていた。
――――そして、あいつが現れた。
早口でまくし立てるように話すあいつ。まるで容赦がない。
何を言っているのかさっぱりだった。
どうせこいつも俺に呆れてすぐに話しかけるのを止めてしまうだろう。
そう思っていた。
だけどあいつは止めるどころか毎日俺の元に来て楽し気に何かを話した。
段々と話す内容が分かり始め俺も簡単な返事をするようになると、あいつは嬉しそうに笑った。
その笑顔が嬉しくて、同時に怖かった。
今が幸せであればあるほど未来の事が怖かったんだ。
今はこうやって笑っているがいつ両親のように豹変するか分からない。
自分から近づいてきたくせに悪態をついて去って行く。
そんな想像しかできなくて、俺はいつも怯えていた。
それから3年間の高校生活はいつも隣りにあいつがいて、いつしか未来への恐怖も薄れ忘れ楽しい時を過ごしていた。
あいつと一緒にいると自然と笑顔も増え、あいつ以外とも冗談を言って笑い合えるようになっていた。
本当に楽しい3年間だった。
―――なのに、その幸せをあいつが壊したんだ。
俺自身は男同士とか偏見はないしあいつの事を好き…だと思う。
だけど生きづらくなるのは確かで、あいつがちょっとしたきっかけでいつ俺の事を捨ててしまってもおかしくはなかった。
忘れていたはずの恐怖が膨れだす。
もうあんな想いをするのは嫌なんだ。
だから断った。好きだったからあいつの手を取る事ができなかったんだ。
簡単に好きだと口にして拒絶されるとそれを冗談にしたあいつが憎かった。
俺は自分から断ったくせにそれでも、と縋りつくあいつを期待してた。
どれだけ俺が断ってもあいつの想いが本当ならできたはずだ。
そうしたら俺だってあいつの事を信じられたかもしれなかったのに―――。
そんな勝手な想いであいつの事を拒絶してみせたんだ。
俺はあいつの事を失いたくなんかなかった―――。
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