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開いてすぐ玄関の方に視線を向けて見れば、まさかの巧がそこに立っていた。彼はもう靴を脱いだ状態で、床に仕事用のカバンが放り投げられている。先ほどの音はこれが落ちた音だったらしい。
「おかえり、全然気づかなかった。早いね」
「……ただいま」
彼はどこか目を座らせて仁王立ちしていた。そのオーラについたじろぐ。どう見ても彼は不機嫌だ、それどころか辛そうにさえ見える。何を怒っているんだこの人は?
「巧?」
「……お前さ」
「なに、なんか怒ってる?」
はあ、と呆れたように大きなため息をつく。
「恋愛は自由っつったけど、相手をこの家に連れ込むなよ。契約書に書いてなかったからってそこは常識で考えればわかるだろ」
眉間に皺を寄せて、巧は言い捨てた。
私はそれを聞いてただポカン、と口を開ける。
相手を? この家に? 連れ込む??
予想外の言葉だったので処理するのに時間がかかってしまった。しばらくは全く理解ができないまま時が流れる。
そんな時、背後から麻里ちゃんがひょこりと顔を出したのだ。
「杏奈? あれ、もしかして旦那様……?」
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