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巧はしまったとばかりに目を泳がせ、頭を下げた。
「そ、それは失礼なことを。申し訳ありませんでした」
「あは、麻里ちゃんが私の恋人って。すんごい間違いだね麻里ちゃん!」
お気楽に笑っている私の隣で、麻里ちゃんも慌てて巧に声をかけた。
「いいえ、家主の方に挨拶もなく勝手に上がっていてすみません……! 杏奈とは小さなころから仲良くしてて、今回も無理を言ってお邪魔させて頂いたんです!」
「いいえ、私が真相も確かめずに思い込んだのが愚かだったのです。別に杏奈が誰を呼ぼうといいのです、それを早とちりし……」
巧は困ったように言いながら私をチラリと見た。何となくその視線で彼が思っていることがわかり、私は言う。
「あ、麻里ちゃんだけは知ってるんだ、この結婚について」
契約書には、別に他の人に話してはいけない、だなんて書かれてはいなかった。だが、麻里ちゃんには話しているということは巧は知らなかったはずだ。
私の言葉を聞き、彼はああと少し納得したように声を漏らした。
「そうでしたか」
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