来客者

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 それだけ短く言うと、立ち上がりキッチンへ向かう。飲み物でも出そうとしたのか冷蔵庫前に来た彼は、ふとコンロの上にある大鍋に気がついた。 「何これ」 「あ、無性にカレーが食べたくて作ったの」 「杏奈が?」 「そう。巧も食べていいよ」  サラリと言ったが、巧は「別にいらない」とでも言うと予測していた。私のズボラさを知っているから、そんな女の料理なんて藤ヶ谷副社長は食さないかと思ったのだ。  が、意外にも彼はすぐにお皿を出して炊飯器の蓋を開けていた。まさか食べると思っておらずぎょっとする。 「え、食べるの?」  私が尋ねると、彼も目を丸くして私をみる。 「え、いいって言ったろ」 「言ったけど……食べると思わなかった」 「杏奈が料理するのなんて貴重だからな」  からかうように言いながらご飯をよそう。 「いや、たまには私もするんだよ! 平日はめんどくさいだけでさ」 「暮らしてから初めてみるから。って、なんだこれどんだけ作ったんだよ!」  お鍋の蓋を開けて彼は呆れたように言う。 「うん、約三日分はあるかな。それでも私はおかわりしたし麻里ちゃんも食べたんだけど」
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