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私はすぐに席を立ち廊下へ向かう。仕事中に家族から連絡など来たことはなかった。私は足早に歩を進めながら、すぐに電話に出た。
「もしもし、お母さん?」
『杏奈?』
普段陽気で笑った顔しか見ない母の声はいたって真剣だった。その声色を聞いただけで、自分の心臓がどきっとする。深刻な話題であることが証明されているからだ。
「どうしたの……」
廊下を急ぎながらも私は先を急かした。母の悲痛な声が響く。
『おばあちゃん、もう危ないって』
動かしていた足を止めた。
それは予測できたはずだった。祖母は末期の癌で、いつそうなってもおかしくない状態なのだから。
それでも、たった数日前巧と会いに行った時は大口開けて笑っていたのに、あまりに急すぎる展開で頭がパニックを起こす。
スマホを落としそうになってなんとか力を入れ直す。
「え、うそ、だってこの前……」
『母さんたちも今向かってるから。杏奈も行けそうならと思って……最期だし』
「…………」
言葉が出てこなかった。でも、今は一分一秒でも惜しいのだと脳が自分を急かす。冷静と混乱が私の中でぐるぐると回っていた。
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