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結婚後、メッセージは送られても電話など来たことはなかった。あまり時間がないので戸惑ったが、なんとなく出た方がいい気がして通話する。
「もしもし?」
『杏奈今どこだ』
開口一番それだった。やや面食らった私は、それでも答える。
「そ、りゃ会社だけど、ごめん今お母さんから」
『正面で待ってろ、車で向かってるから』
「え?」
『杏奈のお父さんから連絡貰ったから。あの場所なら公共交通機関より車の方が絶対早い。少ししたら着くから』
「え……」
それだけ言うと、私の返事も聞かずに電話は切れた。またさらに唖然としてしまう。
巧が、送ってくれるの? おばあちゃんのところまで?
「高杉さん、旦那さんからじゃないんですか?」
「あ、うん、今から迎えにくるって……」
「ほら、荷物取りに行きましょう! 少しの時間も惜しいですよ!」
強く腕を引っ張られてようやく私はそこから足を踏み出した。ただ頭の中に、ばあちゃんの笑った顔だけが浮かんでいた。
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