何かが変わる

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 返事はなかった。私はほっそりしたその手を握る。皺がたくさんある、柔らかな手だった。それはまだ温かく、命を感じさせるぬくもりがある。 「ばあちゃん、結婚式まで頑張るって言ったじゃん……」  つい先日、あんなに笑って巧と話してたじゃない。お見舞いのお菓子をみんなで食べたじゃない。結婚式楽しみだって、ひ孫も楽しみだって言ってたじゃない。 「ばあちゃん……杏奈来たよ。頑張っててくれたの?」  一気に自分の目から涙が溢れ出る。子供の頃過ごした思い出が一気に蘇った。  仕事でいない両親の代わりに夕飯を作ってくれたばあちゃん、適当な調味料配分なのになぜか美味しい。ばあちゃんの作るチャーハンは、未だうちのお母さんも再現できない。  いつだって明るくて優しいおばあちゃんだった。祖父が亡くなった時も気丈に振る舞って、そのうち会えるからって微笑んでいた。  友達が多い人だった。習い事だの旅行だの多趣味な人だった。 「ばあちゃん、わかる? おばあちゃん。可愛がってくれてありがとう。いつも笑ってたけど痛かったよね、もう頑張らなくていいよ」
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