何かが変わる

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   悪口のつもりはなかった。むしろ、気分的には褒めているつもりだった。上手く言えないけれど、キラキラ輝くオーウェンみたいな王子様とは程遠い巧が非常に面白かった。  それでも彼はやっぱり馬鹿にされていると思ったらしく、むすっと目を座らせてこちらをみる。 「あは、違うの、これは貶してるわけじゃなくて……」 「悪かったな、じゃあこうしよう」  不機嫌そうに言った彼は、突如私の頭を自分の胸に寄せた。まるでそんなことを想像してなかった私はされるがまま巧の胸によろけて体重を預ける。  温かな体温と、どこか懐かしい香りに包まれ、驚きでそのまま固まる。自分とはまるで違う、広い胸になぜか息が止まった。  今自分がなぜこんな体勢になっているのかややパニックになるも、巧はいつものトーンで言った。 「泣ける時は泣いておけばいい。目がパンパンになるまで泣いておけ」  低いその声が、なぜか私の涙を誘った。  一気にぶわっと蘇ってきた祖母の面影に涙が溢れる。巧のきているスウェットに、それをなすりつけた。  ああ、泣くのを我慢しなくていいって、楽だな。  どこか居心地のいい体温に安心して、私はそのまま離れることなく彼にしがみついていた。泣きすぎて顔が熱くなるほどに。巧は何も言わずに私に寄り添っていた。
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