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「樹くん、久しぶり。あのね、今日巧は休日出勤しているの、だから家にはいなく」
『うん知ってるよー。だからここに来たんじゃない。ちょっと上がらして?』
まさかの発言が飛び出して目を見開いた。しまった、これは居留守を使うのが正解だったか。顔を歪めて困り果てるも、本人は無邪気に笑っているだけだ。
「あの、私に何か用だったの?」
『うんそう、杏奈ちゃんに用』
「あっと、私寝坊してまだすっぴんだし着替えてもないの……ははは、ごめんだけどまた今度巧がいる時に来てもらえないかなぁ」
そもそも、私に何の用があるというのか。頭の中が?でいっぱいになる。あえて巧がいないのを狙ってきたみたいだし。
困りつつ断る私を、あっけらかんとして樹くんは言う。
『分かった、じゃあ待ってる』
「……ん!?」
『ここで待ってるから。三十分? 一時間くらい?俺全然待てるからいいよ』
まるで悪びれもなくそういう樹くんを見て、本格的に後悔しはじめた。これは相手も何がなんでもうちに上がっていくつもりだ。彼の目がそう物語っている。
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