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あまりに鋭くて全てを当ててくる樹くんに、もはやどう誤魔化せばいいのかわからなくなってきた。私は心の中でため息をつく。でもまさか素直に認めるわけにもいかない、巧とは仲があまりよろしくないみたいだし……言い振り回されてたりしたら。
樹くんは私の顔を下から覗き込む。少年のような表情が、どうもペースを乱される。
「面白い話だね。もしそうだとして、樹くんは何がしたいの? 巧の弱味でも握ったことになる?」
私がそう尋ねると、意外にも彼は目を丸くして首を振った。
「ううん! そんなこと全然考えてないよ」
「そうなの? てっきりそうなのかと思って」
「俺の目的は巧じゃなくて、杏奈ちゃんだから」
少しゆっくりさせた口調で樹くんがそう言ったのを耳で聞いた瞬間、突然ぐるりと視界が回る。あれっと思った時には、背中と後頭部に冷たい床の感触を感じていた。
唖然とする私の視界に見えるのは、重力で髪の毛を垂らしながら私を見下げる樹くんだった。
…………??
あれ、どうなってる?
ただひたすらぽかんとしている私の上から、彼はどこか色気の感じる声で囁いた。
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