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襟を巧に鷲掴みにされて引っ張られている樹くんは、首元を苦しそうにしながらもあっけらかんと言った。その横に、無言ですごい圧を出している巧が立っていた。
巧は目を座らせて樹くんに言う。
「何してる」
「んー杏奈ちゃん口説いてた」
「杏奈に触るな」
低い声でそう言いすてると、巧は樹くんを力強く床に放り投げた。倒れ込んだ樹くんもそのままに、巧は素早く私を起こしてくれる。腕を掴まれてやや強引に引っ張られながら、私はほうっと息をつく。いけない、危ないところだった……!
私は巧を見上げ安心感に包まれる。ふとその額に、汗が浮いているのに気がついた。もしかして、連絡を受けて急いで帰ってきたんだろうか?
「いって、頭打った」
「馬鹿か。どこの世界に兄の嫁に手を出すやつがいるんだよ。流石に殺すぞ」
樹くんは頭をさすりながら起き上がる。口を尖らせて言う。
「いや、だって二人全然夫婦ぽくないから、偽装結婚でもしてるのかなーって。だとしたら俺が杏奈ちゃん口説いても問題なくね?」
「偽装じゃないから問題なんだ。俺たちはちゃんと夫婦だから」
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