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「えーでも俺もう杏奈ちゃん気に入っちゃったから。また遊びにくるね、コーヒーごちそうさま!」
なんの悪びれもなくそう言いながら立ち上がり、私にヒラヒラと手を振った。女ひとり押し倒したことを何とも思ってない様子だ、その自由さにもはや恨言を言う気もなくす。
樹くんは巧にも手を振ると、そのまま鼻歌を歌いながら玄関へと向かっていった。がちゃんと扉の閉まる音がした瞬間、巧はもう何度目かわからない深いため息をつき、その場にしゃがみ込んだ。
「……あの、大丈夫?」
「馬鹿、俺のセリフだ」
「そうでしたね、私は大丈夫です」
私が上から声をかけると、彼が顔を持ち上げる。少し眉を顰めたその表情を見て、何だか胸が苦しくなった。額に張り付いた髪の毛が酷く尊い。
「何された」
「え、何も。危ないってところで巧が来てくれたから。ありがとう」
「押し倒されてたろ」
「ああ……でも、『床ドンってこんな感じなんだ』って感心してたら呆れてたよ樹くん」
「ぷはっ、笑わせんなこんな時に」
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