すれ違いだす心

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「待って、別にその人に会いに行こうとか思ってるわけじゃないよ? でも樹くんが散々言ってた巧にとって忘れられない人って、その人のことでしょ? さすがにどんな人かくらい」 「杏奈が知る必要ない」  冷たく言い放たれたその言葉に、ひんやりと心が冷えたような感覚に陥った。  必要ないって。どうしてそんなに頑なに口を閉ざすの?     なぜだかイライラと苦しさが湧き出てきた。拳をぎゅっと握りしめ、目の前の男を見上げる。 「私が相手の人に嫌がらせでもすると思ってる?」 「別にそういうわけじゃ」 「じゃあ何でそんなに頑ななの。ルームシェアしてる友達に恋の話くらいしてもいいでしょう? 私たちは特に、特殊な関係なんだし」 「過去の女ってことになってるんだ、そこを杏奈が知らなくてもおかしくないだろ」 「細かく教えてなんて言わないよ、それでも簡単なことだけは知っておきたいの、顔合わせの時だって知ってるってご家族の前で言っちゃったじゃない!」
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