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息を荒くして巧に詰め寄った。だが自分自身、何をそんなに意固地になっているのだろうと冷静にも疑問に思っていた。巧が頑なに口を閉ざす姿がやけに苛立ち、不愉快に陥る。
何で、こんなに私は怒っているんだろう。
私の剣幕に、巧も困ったように目線を逸らして頭を掻いた。いつだって自信家なこの男が困っている姿は珍しい。だから、何をそんなに困る必要があるというのか。
気まずい沈黙が流れる。しばらく二人して黙った後、巧が観念したように言った。
「分かった、話す、から」
「う、うん……」
「でも、今度時間ある時に。会社に戻らないと」
言われて思い出す。そういえば、祖母の葬儀のため休んでいた仕事の埋め合わせに休日出勤していたのだった。それを樹くんのことがあってトンボ帰りしてきたところ。
慌てて自分の行動を詫びる。
「そ、そうだよねごめん、わざわざ帰ってきてもらったのに引き止めて……」
「いや、樹のことは俺が悪いから。今度あったら無視しろ、外で会ってもだ。タクシー乗って逃げろ」
「流石に大袈裟……」
「ごめん。行ってくるから」
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