すれ違いだす心

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「高杉さん、今日帰りちょっと飲んでいきません?」  仕事が終わり会社を出ようとエレベーターを待っている時、後ろから来た河野さんが私に声をかけた。  そういえば、以前もそう誘われていたと思い出す。祖母の死があったので、彼女も気を遣って誘いを控えていたのだろう。私と巧の新婚生活を聞きたいと目を輝かせていた。 「ああ……行きたいけど、ちょっと今日は」 「あちゃーだめでしたか、旦那様とデートでしたか、じゃあまた今度ですね!」 「あなたその思い込みの激しさ凄すぎるね」  笑って答える。彼女の中で出来上がっている新婚夫婦像は、私たちとあまりにかけ離れている。巧とデートなんてするはずがないし、挨拶のキスだってしない。  それどころか、もうここ二週間以上巧とは挨拶以外言葉を交わしていなかった。私が家にいる時は殆ど外で仕事をしていて、休日も目が覚めるとどこかへ出かけてしまっている。完全に、避けられていた。
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