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それが何だか想像以上に悲しくて苦痛だった。藤ヶ谷巧という人物の人生に一歩踏み入れるのが、こんなに難しい事だったなんて。ここ最近好きなゲームも進めていられないし、オーウェンだって前ほど輝いていない。
ルームシェアするっていうなら、もうちょっと仲良くしてくれてもいいのに。これじゃあ家庭内別居だ。
到着したエレベーターに乗り込んで一階まで降りていく。退社する人々で一杯の箱の中で、河野さんが囁いた。
「実際どうなんですか、よくデートします?」
「しない。相手も仕事で忙しいからね」
「あーお家デートですか、それもいいですね、家で人目をはばからずイチャイチャが一番ですよね」
何でもプラス思考に物事を運ぶ彼女に笑った。いやでも、新婚なら普通そうだよね。私たちが常識と離れているだけで、彼女の方が当たり前の意見なのだ。
一階にたどり着き、人がどっとエレベーターを降りる。河野さんは隣に並びながらため息をつく。
「私も結婚したいですよー」
「彼氏いたっけ?」
「いません」
「あはは、じゃあまずはそっちが先ね」
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