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そう笑いながら、彼氏なんて期間がなかった男と結婚している女がここにいる、と思った。人のこと言えた立場じゃない。
二人で歩きながら会社の外へと出る。やや暗くなった空をバックに、駅へと足を踏み出していく……その時だった。
「杏奈ちゃーん!」
どこかで聞いた声に、びくっと肩が反応する。
嘘でしょ、この声……。
私が恐る恐る振り返ると、そこにはやはり樹くんがニコニコしながら立って私に手を振っていた。頭痛を感じて頭を抱える。
隣にいた河野さんは、目を輝かせて小声で尋ねた。
「高杉さん! あの可愛いイケメンだれですか! 不倫相手!?」
「だからあなたの思考回路どうなってるの……」
力なく答えると、樹くんが私たちのそばまで歩み寄ってくる。確かに彼はこの人混みの中でも目を引くほど綺麗な顔立ちをしている。巧とはタイプの違う綺麗な男の子だ。
樹くんは犬のように嬉しそうに笑ながら言った。
「待ってたんだ」
「ええと……」
「あ、仕事仲間の方? 俺藤ヶ谷樹です、巧の弟」
樹くんが河野さんにいうと、彼女はみるみる顔を緩ませた。これだけ顔に出やすい子も珍しい。
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