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「この前だって本当にするつもりじゃなかったよ。押し倒しても無反応な杏奈ちゃんの慌てる様子が見たくて」
「だから声! 大きい!」
思わず振り返って注意してしまった。だがそこにいたのは、なぜか嬉しそうに笑う少年のような樹くん。
「あ、やっとこっち見た」
…………あっぶな、ほだされそうだった。
悔しいけど可愛い。この子は可愛すぎる。やることも言うこともめちゃくちゃなのにどこか憎めない天性のものがある。つい笑って許してしまいそうになった。
なんとか自分を戒める。この子犬は飼えません。
再び早足で歩き続ける。未だタクシーは通らない。用がないときは連続で走っているのを見かけたりするくせに、必要な時はこれだ。
駅とはまるで違う方向に進み続け、もはや知らない場所へと辿り着いていく。それでもやっぱり彼は付いてきた。
「ねえ、飲もうとは言わないからさ、コーヒーぐらい行こうよ」
「急いでるから」
「じゃあ連絡先教えて」
「じゃあでなんでそうなるのよ」
「いいじゃん弟だもん」
「何かあれば巧に連絡すればい———」
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