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「……はあ? あいつ何してんだ……!」
隣にいた樹くんが怒りを込めた言葉でそう言い、駆け出そうとするのを慌ててその腕を掴んで止めた。彼は驚いたように私を見る。
「い、樹くんいいから……!」
「いやよくないから! てか杏奈ちゃんが飛び出していかなきゃ!」
「いいの、本当にいいから……!」
隣の女性が誰かを私は知っていた。巧がずっと忘れられないと言っていたシングルマザーだ。なるほど確かに、とても綺麗な女の人だった。
樹くんは苛立ったように私にいう。
「あんま信じらんないかもしれないけど、俺本当に浮気とかそういうの許せないタイプなんだって! いやほんとどの口が言ってんだよって感じだろうけど。行って殴った方がいいって!」
「本当にいいから! あの、家でちゃんと巧と話すから……!」
必死に樹くんの腕をつかんで止める。今樹くんが突入してはごちゃごちゃになる。いやそもそも、突入する理由がない。私はあの二人を容認しているのだから。
……そう、容認している。
契約だった。巧に他に好きな人がいるのを分かった上での結婚。私たちは夫婦でもなんでもない、ただのルームメイト。
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