すれ違いだす心

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   ああ それなのに、  なんでこんなに胸が痛い 「……ご、ごめん、俺落ち着くから……。確かに二人の問題で、俺が首を突っ込むのは変だよね」  樹くんが困ったように言う。私は再びホテルに目を向けると、もう巧とあの人は中に入ってしまって見えなくなった。そんなホテルから視線を逸らすように、私は踵を返して来た道を戻る。背後から樹くんが慌てて追いかけてくるのを感じた。  ただそこから少しでも早く離れたくて足早に進んだ。ほとんど走り出す私の隣に樹くんが並ぶ。 「あの、杏奈ちゃん、落ち着いて……」 「大丈夫落ち着いてる」 「俺が代わりに謝るのも変だけど、ご、ごめん。巧が」 「あは、ほんとなんで樹くんが謝っているの」  笑い飛ばしたつもりが、口から漏れたのは渇いた笑いだった。  そうか、ここ最近ずっと巧とは顔をゆっくり合わせていなかった。仕事もあるだろうけど、あの人とああしてホテルで過ごしていたのか。いやだから元からそれが当然の行動なんだって。  小走りになっていた足がもつれ上半身が前に倒れ込む。転ぶ、と思った瞬間腕が出てきて私を支えてくれた。いうまでもなく樹くんだった。
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