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黒髪に涼しげな目元。もう見慣れたはずのその顔に、今更ドキリと胸が鳴った。
巧はどこか厳しい顔をしていた。その表情に私の心も冷える。
ツカツカと私に歩み寄ってくる彼にそれでも平然を保ち、挨拶の言葉を投げかけた。
「早かったね、おかえ」
「樹と会ってたのか?」
言い終える間もなく巧は言った。
「……え?」
「樹と会ってたのか?」
聞きたいことなんてこっちが山盛りのはずなのに、なぜか巧に質問されている。私が戸惑っていると、巧はスーツのポケットから携帯を取り出し読み上げた。
「『ふざけるな、次あったら殺す。杏奈ちゃんに謝れ』」
「……それ、樹くんが?」
なるほど、やけに早いご帰宅は樹くんからの連絡があったからか。
納得する私を他所に、巧は携帯をしまいながら眉をひそめて言う。
「樹には気をつけろって言っただろ、なんで会ってたんだよ。てゆうかコイツは何をキレてるんだ?」
「別に会ってたって言っても、仕事終わったら会社の前で待ち伏せされてて……」
私が言うと巧は大きなため息をついて天井を見上げた。
「あいつ……」
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