すれ違いだす心

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 つい口にでた言葉はそれだった。しかも相手はあんただよ、あんた。……なんてことは口が裂けても言えないが。  巧は私のセリフを聞いた瞬間、目をまん丸にさせた。私はプイッと顔を背ける。  彼は唖然とした様子で立ち尽くし、どこか掠れる声を出す。 「え……だって、お前……」 「私女が好きなんて一言も言ったことないもん。どちらかといえば恋愛対象は男。ただ基本的には恋愛に興味なかったからあの文句使ってたの。そしたら周りが勘違いして」 「はあ……? 恋愛対象、男?」  ここまで言い終えてからしまった、と思った。私は女が好きなんだと思い込ませておいた方が色々と楽なのに、なぜこのタイミングでバラしてしまったのだろう。  気まずい沈黙が流れた。今巧がどんなことを考えているのか分からなかった。でもあの自意識過剰男だから、『じゃあ俺のことが好きになったのか』とか言い出しそう……いや、自意識過剰でもないのか悔しい。  そこだけは断固バレてはいけないと思った。なんとしてでも隠し通さねばならない。 「なん、で最初から言わないんだよ……」
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