すれ違いだす心

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 弱々しい声が聞こえてそちらを向いた。巧は項垂れるように肩を落としていた。なんだか気の毒になりながらも、私は強気に言う。 「言う必要ないかなって」 「散々そう噂されてたからてっきりそうなんだと」 「今どき同性愛者も珍しくないし、そう思われてデメリットはないから放っておいた。恋愛に興味ないのは本当だったし。だからって別に私は……」  言っている最中、隣に置いておいた携帯が鳴り響いた。反射的にそれを見ると、先ほど登録したばかりの樹くんの名前が出ていた。心配になって電話を掛けてくれたらしい。  あっと思ったのも束の間、私が手を伸ばすより先に横から携帯を取られた。見上げれば、巧が携帯の画面を見て驚きの顔をしていた。 「ちょ、ちょっと勝手に」 「……樹と連絡先交換したのか?」 「え?」 「お前、樹のことが好きなのか?」  呆然としたように言ってきた巧に少し驚いた。まさかそんな考えになるとは想像していなかった。  そんなわけないのに。ほとんど会ってもない樹くんを好きになるだなんて。そう思いつつ、巧への気持ちがバレるくらいならそうしておいたほうがいい気がした。
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