すれ違いだす心

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 私は立ち上がって巧から携帯を奪う。未だ着信音を鳴らすそれをポケットに仕舞い込み目を逸らしたまま言った。 「恋愛は自由なんでしょ」  契約内容はそうだった。お互い恋愛は自由。現に巧だって他の女と付き合い続けているんだから。 「……けるな」 「巧だって自由にし」 「ふざけるなよ」  低い声が響いてはっとした。巧を見れば、見たことない座った目で厳しく私を見ていた。あまりの顔についたじろぐ。そりゃ普段からプライベートはニコニコしてるタイプじゃないけど、それにしてもこんな表情の巧は初めて見る。  どうして、怒らせた? 「……え」 「なんで樹なんだよ」  そう怒りの声を漏らした瞬間、ただぽかんとしている私に巧の顔が近づいた。一瞬の出来事だった、彼の熱い唇が自分の唇と重なっていることに気がつく。これまでの人生一度も経験したことのない感触にただ呆気にとられた。  頭の中は真っ白だった。何がなんだか分からず、驚きで情けなくもふわりと後ろに倒れ込んでしまう。
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