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広い病院内の角をいくつか曲がり、樹くんはまっすぐ目的地に向かっていく。途中、一度だけ私を振り返った。それでも何も説明なく、そして私に質問する隙も与えずに足を進め続ける。
辿り着いたのは一つの白いドアの前だった。樹くんはそのドアの前に来ると、一旦立ち止まり私をみる。
「……こ、こ?」
少し乱れた息で尋ねると、小さく頷いた。その顔は暗く悲痛な表情をしていた。
ワナワナと震える唇を噛み締め、私は銀色のドアノブを握り一気に開く。中は個室だった。あまり広いとは言えない病室の中央に、綺麗な顔で眠る巧の顔がすぐに目に入る。
自分の呼吸が止まってしまったかと思った。
大きな窓から昇り始めた日が巧の顔を照らしていた。それがなんだか幻想的で美しくて、その光景を一生忘れないと思った。
ああ、そんな
「…………た、巧!!」
ようやく喉から声を絞りだした。不恰好にもひっくり返って震えた声だった。
横たわる彼に向かって駆け出す。シワのないシーツが寂しく感じた。
「……ん、杏奈??」
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