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その顔を見た途端心臓がどきりと大きく鳴り響いた。それは未だかつて感じたことのないほどの高鳴りだった。オーウェンにさえ感じたことがないくらいの。
そして同時に今更恥ずかしく感じた。鼻水だらけの顔に馬鹿げたTシャツ、すっぴん。何回も見られているはずの格好なのに、今はひどく恥ずかしくて穴があったら入りたい。
慌てて顔を伏せた。近くで見ないでほしいと思った。
「あのさー。俺二人の仲を取り持つつもりで登場した覚えはないんだよね」
背後から声がしたため二人で振り返る。樹くんが入り口で扉にもたれながら腕を組んでこちらを見ていた。彼の存在をいつのまにかすっかり忘れていた私はさらに恥ずかしさに襲われる。
樹くんは不機嫌そうにこちらを見ながらいう。
「これ本当に。どちらかと言えば邪魔してやろうって立場だから。杏奈ちゃん気に入ってるし」
「樹」
「すんごいでかい借りだから巧。昨晩俺に電話で言ったことちゃんと杏奈ちゃんに言えよ」
私は隣にいる巧の顔を見上げた。彼はどこか気まずそうに視線を逸らし、それでも小さく頷いた。
樹くんははあーあと大きなため息をついて頭をかく。
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