ストレートに聞かせてよ

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   少し久しぶりにあのマンションに足を踏み入れた。  ホテルに置きっぱなしの荷物をまた取りにいかなきゃなあ、と考えながらリビングに入る。相変わらず広くて綺麗なリビングだった。    無言で冷蔵庫に直行し飲み物を取り出しながら気まずさに困り果てる。巧が一体どう切り出してくるだろうと気になって仕方がない。  とりあえずこの部屋着を着替えてきた方がいいだろうか、と心の中で考えながら一杯水だけ飲むと、未だソファに座ることすらせずにぼんやり考え込んでいる巧の背後に近づいた。 「あの巧、私着替」 「まず最初にいいか」  私の言葉は切られた。乱暴な話の切り出し方に目をチカチカさせながら、私は巧のどこかピリピリした空気に頷く他なかった。  巧は鋭い目つきで私を見つめている。 「樹から聞いた。俺が女とホテルに入ってくところを見たって」 「え、あ、ああ……そうだね、偶然なんだけど。綺麗な人だったねシングルマザーの人」  無理矢理顔に笑顔を浮かべて答えた。脳裏にあの日の光景が蘇る。高級ホテルの前に歩く二人は大変に絵になっていた。隣の女性は本当に綺麗な人で妖艶で…… 「馬鹿か」
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