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どこか歯切れの悪い言い方で口籠ると、巧は再び考えるように黙り込んだ。私は何も言わず隣でそれを見守る。なかなかの長い時間、そうして沈黙を流した。それを破ったのは巧だ。
意を決したように顔を上げて私の方を見た。
「杏奈」
「なに」
「俺今から結構引く話すると思うけどいいか」
「別に普段から巧には引いてるから大丈夫だよ」
私が言い返すと、こんな時だというのに巧はぶはっと吹き出して笑った。笑顔を見たのは久しぶりなきがして、つい私の頬も緩んでしまう。
どこか子供みたいなくしゃっとした顔で笑った巧は、少しだけ緊張がほぐれたような顔で足を踏み出した。
「俺の部屋、いけばわかる」
その言葉を聞いて目が点になる。
「……へっ!」
「こっち」
お互いの部屋は出入り禁止。契約した時に書いてあった条件。私にとってもかなり嬉しい条件だったから今でも鮮明に覚えている。
その巧の部屋に……?
オロオロと慌てる私をよそに、彼はリビングの扉を開けて廊下へ出た。私は慌ててその後を追いかけた。
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