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私はゆっくり振り返って巧をみた。彼は気まずそうに両手をポケットに入れたまま床を見つめている。
「ねえ、これ……」
「覚えてるか」
「覚えてるかって……」
それは私の幼き頃の思い出。少し苦くて悲しい思い出。
小学生の頃引っ越しをすることが決まり、同じ塾に通う好きな男の子に手紙を書いた。ラブレターと呼ぶほどのものでもなかった、それでも子供ながらに緊張して鉛筆を握ったことは覚えている。
帰り道それを渡した。だがどうしても二人きりになれるタイミングはなかったので、周りに友達がいる中でのことになってしまった。
『なんだよこれいらないし』
彼はそう言って、私の手紙をくしゃくしゃにして道端に捨てた。今考えると、異性から手紙を貰うなんて場面を友達に見られたことが恥ずかしかったに違いない。
でもやはり当時の私はあまりにショックで泣きながら家に帰った。直後近所に住んでいた麻里ちゃんに『これでも見て元気出して!』と見せられた二次元にどハマり。立派なオタクが仕上がったのだ。つまり三次元に興味なくなったきっかけだ。
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