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目の前にある水玉の便箋は紛れもなくその時のものだ。さすがに間違えるわけがない。
私は頭を抱えて記憶を呼び起こす。
相手の子って、なんて名前だった? あの思い出が辛すぎたせいで脳が防御反応を起こしたのだろうか。単に時間の経過のせいだろうか。相手の男の子の名前はちっとも覚えていなかった。
ちらりと再び水玉を見る。『たっくん ひっこし』……
たっくん。そうだ、
相手の子は確かにたっくんって呼んでいた。
「覚えてないかと思ってた。俺の名前聞いても全然気づく気配なかったし」
小声で言ったのを聞いて彼の顔を見上げる。困ったような顔で巧は笑っていた。
「え、ま、待って……その、出来事は覚えてるよ。でもその、相手の子の名前はすっかり忘れちゃってて」
「まあ二十年近く前だしな」
「あ、あの時の……子なの? 巧が??」
彼は静かに頷いた。あまりの驚きに言葉を失くす。
「巧は、気づいていてたの私だって……!」
「俺は記憶力いいからな」
「すみませんね馬鹿で」
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