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幼心に傷ついた。でもそれはもうずっと昔のこと。
「そっか、あの後ちゃんと手紙もらってくれてたんだ。そうかあ。何か今更嬉しいよ。当時はショックだったから。まあ、大人になった今は恥ずかしかったんだろうなーって想像つくけどね」
笑いながら言った。別に恨んでたわけでもないし、苦かった思い出がちょっと味を変えたかなあと思う。こんなに時間が経ってから真実がわかるなんて。
笑っている私の隣で、巧はクリアファイルをデスクの上に置いた。乾いた音が部屋に響く。
「杏奈」
「ん?」
「俺嘘ついてたんだ」
「嘘?」
巧がこちらを見る。その表情をみて笑いは止まった。酷く真剣で、恥ずかしそうで、怯えたようで、まるで小さな子供みたいな顔だった。
つられてこちらも体が強張る。
「……好きなシングルマザーなんていない」
へ、と間抜けな声が漏れた。ぽかんとした顔で巧を見上げる。
「いないんだ。そんなの、最初から存在しない」
「……え、ええ?」
「でまかせだったんだ」
まさかの言葉に大混乱が生じる。あれだって、その人と付き合い続けるために契約結婚の相手を探していたのに……?
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