ストレートに聞かせてよ

27/33
前へ
/382ページ
次へ
 幼心に傷ついた。でもそれはもうずっと昔のこと。 「そっか、あの後ちゃんと手紙もらってくれてたんだ。そうかあ。何か今更嬉しいよ。当時はショックだったから。まあ、大人になった今は恥ずかしかったんだろうなーって想像つくけどね」  笑いながら言った。別に恨んでたわけでもないし、苦かった思い出がちょっと味を変えたかなあと思う。こんなに時間が経ってから真実がわかるなんて。  笑っている私の隣で、巧はクリアファイルをデスクの上に置いた。乾いた音が部屋に響く。 「杏奈」 「ん?」 「俺嘘ついてたんだ」 「嘘?」  巧がこちらを見る。その表情をみて笑いは止まった。酷く真剣で、恥ずかしそうで、怯えたようで、まるで小さな子供みたいな顔だった。  つられてこちらも体が強張る。 「……好きなシングルマザーなんていない」  へ、と間抜けな声が漏れた。ぽかんとした顔で巧を見上げる。 「いないんだ。そんなの、最初から存在しない」 「……え、ええ?」 「でまかせだったんだ」  まさかの言葉に大混乱が生じる。あれだって、その人と付き合い続けるために契約結婚の相手を探していたのに……?
/382ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2940人が本棚に入れています
本棚に追加